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奨学金返還免除制度とは?
日本学生支援機構(JASSO)では、奨学金の返済が著しく困難になった場合に返還を免除する制度を設けています。その対象となるケースは大きく2つあり、①本人が死亡した場合と、②重度の障害により働けなくなった場合です1。この制度では所定の手続きを行うことで、残っている奨学金の返済の全部または一部が免除されます2。
ただし、この免除制度のハードルは高く、単に「お金がなく返済できない」という理由だけでは免除は認められません2。特に精神や身体の障害による免除は、「障害のために収入を得ることが極めて難しく、返済が物理的に不可能な場合」に限られます。そのため、てんかん等の病気であっても、免除が認められるのは一部の重いケースに限られる点に注意が必要です。
障害を理由とした免除の条件と「等級」
精神または身体の障害が原因で返済が困難な場合、以下の条件をすべて満たすことで奨学金返還免除の申請資格が得られます3:
- 日本学生支援機構の貸与奨学金を受けていたこと(返済義務があること)3
- 障害により奨学金を返済することが著しく困難な状態にあること4
- JASSOが定める「第1級」または「第2級」いずれかの障害基準に該当していること4
ここでいう「第1級」「第2級」とは、JASSOが独自に定めた障害の重さの区分(等級)です。第1級は最も重い障害、第2級はそれに次ぐ重度の障害を指し、この等級によって免除される返済額の割合も変わります5。具体的には、第1級に該当すると残りの返済額が全額免除され、第2級に該当すると残り返済額の最大4分の3までが免除されます6 7(第2級では残り4分の1は引き続き返済が必要です7)。
JASSOのこの障害等級の基準は、障害者手帳や障害年金の等級とは必ずしも一致しません8。障害者手帳の有無や等級に関係なく、JASSOの定める基準に当てはまれば免除が認められます8。
また対象となる障害は症状が固定し(回復の見込みがない)、長期にわたり継続するものに限られます9。「症状が固定」とは病状が安定してこれ以上大きく良くならない状態を指し、一時的な障害や治療で改善が見込まれる場合は含まれません。
第1級に相当する障害の例
第1級に相当する障害の例としては、「精神の障害で常に判断能力を欠く状態」「両目の視力が0.02以下」「両手の指をすべて失った状態」「常に寝たきりで介護を要する状態」など、日常生活も自力では送れないような非常に重い障害が挙げられています10。これらの場合は事実上働くことができないため、奨学金の返済が全て免除される対象になり得ます11。
第2級に相当する障害の例
一方、第2級の例としては「視力が0.1以下に低下」「両耳が補聴器を用いてもほとんど聞こえない」「脊柱の著しい障害や半身不随で労働が著しく困難」「片手や片足を失った」等があります12 13。第2級は働く能力がある程度あるものの非常に大きな制約を受けている状態です13。このような場合には返済額の一部が免除される(一部免除)措置がとられます。
てんかんの場合、どんな状態なら免除対象になり得るか
てんかんをお持ちの方が返還免除の対象となるかどうかは、てんかんの症状の重さとそれによる就労への影響度によります。てんかんは法律上「精神障害者保健福祉手帳」の交付対象となる障害と位置づけられており、日常生活や社会生活への支障の度合いによって1~3級の等級が決定されます14。
一般に、発作が十分な治療にもかかわらず頻繁に起こり、日常生活に常時介助が必要な場合は最も重度(障害等級1級程度)とみなされ、常に介助が必要なほどの発作の頻発は「労働能力を喪失した状態」に該当し得ます15。
全額免除が認められる可能性があるケース
例えば、難治性てんかん(治療を続けても発作を抑えられないてんかん)で、月に何度も大きな発作が起こり、一人では外出や生活が困難なようなケースでは、奨学金返済免除の第1級相当として全額免除が認められる可能性があります。
一部免除が認められる可能性があるケース
次に、発作頻度がやや低くても依然として就労に大きな支障がある場合です。例えば「薬を服用しても年に数回は意識を失う重い発作が起き、その結果日常生活が著しく制限されている」ケースでは、障害等級で言えば2級程度に相当し、労働能力が高度に制限されている状態と判断されるでしょう15。このような場合には一部免除(残額の一部を返済)となる可能性があります。具体的には、残り返済額の75%が免除され、残り25%のみ返済といった措置です6。実際の免除割合は審査によって決まりますが、症状の程度によっては大幅な減額が期待できます16。
免除対象にならないケース
反対に、発作が薬でほぼ抑えられている場合や、発作があっても比較的軽度で通常の就労が可能な場合は、返還免除の対象にはなりません。たとえば発作が年に1~2回程度で日常生活に大きな支障がなく働けているような場合は、「労働能力が高度に制限」とまでは認められないため免除申請は難しいでしょう。てんかん=免除対象ではなく、あくまで「てんかんにより働けない状態かどうか」がポイントになることを覚えておいてください。
障害等級や労働能力の評価が与える影響
奨学金返還免除の可否や免除される額は、最終的には障害の重さ(等級)とそれに伴う労働能力の評価によって決定されます。前述のとおり、第1級に該当する重い障害であれば返済残額の全額免除、第2級相当であれば一部免除となります6。JASSOの定める第2級基準(労働能力に高度の制限)を下回る場合、免除制度そのものの適用が認められない可能性が高いです。つまり、「多少働ける余地がある」と見なされるケースでは、たとえ経済的に苦しくても返還免除は難しく、他の方法で返済を続ける必要があります2。
「働く能力が高度に制限されている」の具体的な目安
では「働く能力が高度に制限されている」とは具体的にどの程度を指すのでしょうか。目安としては、「健常者と比べて著しく低い収入しか得られない、もしくは定職に就くことができない状態」と言えます。実際、障害を負って就労困難になった方の多くは収入がごくわずかで、自治体の非課税世帯の基準(年収およそ204万円以下)に該当する低所得となっています17。
奨学金免除の審査においても、前年所得がこの非課税水準であること(極めて低収入であること)は重要なポイントです18 17。言い換えれば、障害等級が2級相当で「働く力が大幅に制限」されている人は、結果的に収入も非常に低くなっているのが通常であり、そのような状況であれば免除が認められやすいでしょう。
一方で、ある程度の収入がある場合には免除は認められにくいことも心得ておきましょう18。仮に障害を持ちながらも在宅で仕事を続けていて年収が300万円程度あるような場合、客観的には「収入を得る手段がある」と判断されるため、返還免除の審査を通るのは難しくなります18。免除制度はあくまで働きたくても働けない人の救済措置であるため、「働ける可能性が十分にある人」には適用されにくい点に注意してください。
申請手続きの流れと必要書類
奨学金返還免除を申請する場合の手続きは、以下のような流れになります。
| 手順 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 主治医への相談 | 現在の症状が固定していて回復の見込みがないこと、および就労が困難な状態であることを確認19 | 医師がこの条件を満たすと判断した場合に初めて申請手続きに進むことができる |
| 2. 必要書類の準備 | JASSO所定の「奨学金返還免除願(申請書)」20、収入証明書21、診断書20を準備 | 診断書は病院で作成後、厳封してもらい提出23 |
| 3. 書類の提出 | 準備した申請書類一式をJASSOに提出21 | 不備があると受理されず差し戻される24 |
| 4. 審査と結果通知 | JASSOにて書類審査が実施され、免除の可否と範囲が決定5 | 精神疾患(てんかんを含む)の場合は審査期間が長引く傾向25 |
必要となる主な書類
詳細な必要書類リスト
- 奨学金返還免除願(申請書) – JASSO所定の用紙。本人および連帯保証人の署名欄があります20
- 収入証明書類 – 市区町村発行の所得証明書や課税証明書など直近の収入を証明する書類21。低所得であることを示すために必要です(住民税非課税の証明になればなお有利です17)
- 診断書(医師の証明書) – JASSO指定の様式に医師が記入する診断書20。障害の状態や経過、就労困難である旨など詳細に記載してもらいます22。病院で作成後、厳封してもらい提出します23
これら以外に、場合によっては補足資料の提出を求められることもあります。例えば、障害者手帳を取得している場合はそのコピーや、障害年金を受給していれば年金証書のコピーなどを添えることで障害の事実を補強できるでしょう(提出必須ではありませんが、状況証拠として役立ちます)。
提出後、万一書類に不備があればJASSOから照会や追加資料の依頼がありますので、迅速に対応してください24。
全額免除が難しい場合の代替制度
残念ながら返還免除が認められない場合や、免除申請の前提条件を満たさない場合でも、奨学金返済の負担を軽減するための他の制度がJASSOには用意されています。代表的なものが「返還期限猶予制度」と「減額返還制度」です。
返還期限猶予制度(猶予制度)
返還期限猶予制度は、一定期間、奨学金の返済を待ってもらう(支払いを一時止める)制度です26。経済的困難、傷病、失業などにより現在返済が難しい場合に申請できます26。猶予が認められると、その期間中は返済が免除されるわけではありませんが支払いが一時猶予されます。
- 適用期間:通算10年(120か月)までという上限がありますが、災害や傷病など特別な事情がある場合は10年を超えて延長できる場合もあります26
- 注意点:猶予期間中、第2種奨学金(有利子)の場合は利息の発生に注意が必要ですが、延滞にはならないため信用情報等への悪影響は避けられます
- 更新:猶予は1年ごとに申請が必要で、継続する場合は毎年更新手続きを行います27
減額返還制度
減額返還制度は、月々の返済額を減らしてもらい、その分返済期間を延長する制度です。返済そのものは続けますが、毎月の支払い額を最大で1/2や1/3程度に減額できます28 29。
- 例:「月々2万円の返済」を「月々1万円」に減額する代わりに、返済期間を倍に延ばす、といったイメージです29
- 対象:収入が減少した場合や病気・障害で働ける時間が減った場合など、減額すれば返済継続できる人が対象です30
- 適用期間:1回の申請で最長1年間で、必要に応じて更新できます31
- 2024年以降の改善:選択できる減額幅が拡大され、4分の1(25%)や3分の2(約66%)への減額も選べるようになりました32
これらの制度は返済そのものを免除するものではありませんが、結果的に長期間に渡って返済を先延ばししたり月額を下げたりできるため、経済的負担を大きく軽減できます。特に、免除申請が認められるまでのつなぎとして猶予制度を活用することは重要です。実際、重い障害で免除を検討している多くの方は、症状が固定するまでまず返還猶予を利用し、その後正式に免除申請を行うケースが一般的です33。
てんかんの方・ご家族へのアドバイス
てんかんをお持ちの方やそのご家族が、この制度を利用する際のポイントをいくつかまとめます。
1. 主治医と連携する
まず何よりも、主治医に現在の病状や就労の可否について正直に相談してください。免除申請には医師の診断書が不可欠であり、そこに「症状が固定しており、回復の見込みがない」「就労が困難である」ことを明確に記載してもらう必要があります34 22。主治医には日頃の発作の状況や生活上の困難さを詳しく伝え、診断書作成の協力を仰ぎましょう。ケースによっては、医師が障害年金の診断書など既存の書類を参考にして書いてくれることもあります。
2. 早めに猶予申請を行う
てんかんの症状が原因で返済が難しいと感じたら、免除の可否にかかわらずできるだけ早く返還期限猶予の手続きを行いましょう。猶予をかければ、その間の返済請求が止まり精神的・経済的負担が和らぎます26。特に免除申請を検討している場合、症状が安定するまで数年単位で猶予を活用し、その間に医師と相談しながら申請のタイミングを図ることをおすすめします35。猶予や減額の申請はスカラネット・パーソナル(オンライン)や所定の願出書で行えますので、家族と協力して手続きを進めてください。
3. 必要書類・情報を集めておく
障害の程度を証明するものや収入に関する資料は早めに揃えておきましょう。例えば障害者手帳を取得できる状態であれば取得し(てんかんによる精神障害者保健福祉手帳など14)、障害年金を受給できるのであれば申請しておくことも有益です。手帳や年金は免除申請の必須条件ではありませんが、取得していればそれだけ客観的に重い障害であることの裏付けになります。また所得証明や課税証明は毎年役所で発行されるものですので、最新のものを用意しておきます21。直近の所得が非課税水準かどうかを確認し、そうでなければ猶予期間中に収入調整を図る(例えば治療に専念し収入を抑える等)ことも検討しましょう18 17。
4. JASSOや専門機関に相談する
手続きや必要書類で不明な点があれば、一人で悩まずにJASSOの相談窓口に問い合わせましょう。JASSOには奨学金相談のための公式サイトや電話相談窓口があり、返還猶予・減額返還・返還免除の手続きについて質問することができます36 37。また、日本てんかん協会など患者会や支援団体も、社会保障制度の活用方法についてアドバイスを提供しています。先輩の体験談や専門家の意見を参考にしながら、適切に制度を利用してください。
5. 家族や周囲の協力を得る
障害のある方ご本人が手続きをすべて行うのは大変な場合もあります。家族や信頼できる支援者と情報を共有し、書類の準備や提出作業をサポートしてもらいましょう。特に連帯保証人になっている家族がいる場合、一緒に申請書に署名し、免除制度について理解してもらう必要があります20。周囲の協力を得ることで、手続きの負担や精神的な不安も軽減できるはずです。
最後に、奨学金返還免除制度は「救済措置」であって恥ずかしいことではないという点を強調しておきます。てんかんを含む障害や難病によって働けず、奨学金の返済が困難になるのは決して本人の責任ではありません。制度を利用できる状況であれば遠慮なく活用し、経済的な不安を減らすことで治療や生活の安定に専念してください。免除が認められなかった場合も、猶予や減額、さらには債務整理など他の解決策もあります38 39。一人で抱え込まず、家族や専門家と相談しながら最善の方法を選びましょう。
まとめ
奨学金の返還免除制度は、てんかんなどにより深刻な障害を負って働けなくなった場合に返済の負担を取り除くための重要な制度です。日本学生支援機構(JASSO)は明確な基準を設けており、症状が固定して労働能力が失われた状態と認められれば、返済残高の全額または一部が免除されます40。特に難治性てんかんで日常生活に著しい支障が出ている方は、この制度の対象になり得ます。
申請には医師の診断書など多くの準備が必要ですが、返還猶予制度等を利用しつつ焦らず進めてください33。免除が難しい場合も、猶予や減額など他の救済措置で負担軽減が可能です29 26。てんかんを持つ方やご家族は、遠慮せずに利用できる制度を調べ、専門機関に相談しながら適切に活用していきましょう。
一人ひとりの状況に応じた支援策を組み合わせることで、将来への不安を減らし安心して生活できる道が開けるはずです。困難なときこそ、公的な制度や周囲の支えを積極的に活用してください。ご自身とご家族の生活再建に、この情報がお役に立てば幸いです。