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アクセス解析をしてみると、よく見ていただいているページなようなので、モバイルスライド、グラレコ、音声概要と更新しました(2025年6月25日)
可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome, RCVS)は、反復する突然発症の激しい頭痛(雷鳴頭痛)と、脳動脈の多発性分節性攣縮を特徴とする臨床放射線学的症候群である[1]。以前はCall-Fleming症候群や産褥期血管障害などとも呼ばれた良性の脳血管障害の一種であり、20〜50代の女性に好発する(平均発症年齢約42歳、女性が男性の約2.6〜10倍)[1]。 脳血管攣縮は通常3か月以内に可逆性に消退する一方で、経過中に一部の患者は痙攣発作や脳梗塞、くも膜下出血(SAH)または脳出血、後部可逆性脳症(PRES)を来すことがあり[2]、神経救急領域での迅速な鑑別診断と適切な治療介入が重要である。以下にRCVSの標準的な診断・治療法、病態生理、鑑別診断、および最新の知見について概説する。
診断と鑑別診断
診断基準と画像検査
RCVSの診断は臨床症状と画像所見に基づく総合診断であり、他疾患の除外も必要である。2007年に提唱された診断基準では、以下の点が重要とされている[3]:
- 脳血管造影(DSA)またはMRA/CTAで脳動脈のびまん性多発分節狭窄(いわゆる"string-of-beads"所見)を認める。
- 動脈瘤破裂によるSAHの所見がない。
- 髄液検査が正常またはほぼ正常(軽度の細胞増多や蛋白上昇のみ)。
- 急性かつ激烈な頭痛発作(雷鳴頭痛)を呈し、場合により局所神経脱落症状を伴う。
- 上記の脳動脈狭窄が3ヶ月以内に可逆性に改善する(フォローアップ血管画像で正常化する)。
画像診断: 初期対応としてはクモ膜下出血の除外のため頭部CTを施行し、必要に応じて腰椎穿刺による髄液検査を行う[4]。画像上SAHが確認されない場合、MRAや頭頸部CTAによる血管評価が推奨され、RCVSでは複数の脳動脈にわたる節状の狭窄と拡張の交代("数珠状"の所見)が確認される[3]。
ただし発症初期には血管攣縮が軽微で画像上明らかでない場合もあり、症状経過からRCVSが強く疑われる場合には1〜2週間後に再度MRA/CTAを行うことで狭窄所見が明瞭となることがある[3]。最終的な確定診断や他の血管病変(例えば血管炎や奇形)の除外にはデジタルサブトラクション血管造影(DSA)が有用であり、非侵襲的画像で確診できない例や臨床像が非典型的な例ではDSAが考慮される[4]。
RCVS患者では脳実質画像(MRI)で異常を示さないことも多いが(最大約25%が初期MRI正常と報告)[3]、一部では境界領域梗塞や皮質下出血(非動脈瘤性の脳回頂に限局したSAH)、PRES様の白質浮腫病変などが検出される[3]。特に若年中年患者のびまん性脳回頂部SAH(いわゆる凸面SAH)の原因としてRCVSは重要な鑑別である[5]。
診断アルゴリズム
- 初期評価: 頭痛の発症様式と神経学的所見を迅速に評価し、緊急性を判断します。特に頭痛が「突然に最悪の痛み」で1分以内にピークに達したか(雷鳴頭痛の特徴)を確認します[4]。
- SAHの除外: 直ちに非造影頭部CTを撮像し、くも膜下出血がないか評価します[4]。CTが陰性でもSAHが疑われる場合は、6時間以後に腰椎穿刺を行い、髄液中のキサントクロミーを確認します[4]。
- 脳血管イメージング: SAHが否定されたが雷鳴頭痛が持続・反復する場合、頭頸部CTAまたはMRAで脳動脈狭窄の有無を評価します[4]。多発性の分節狭窄が確認されればRCVSが強く示唆されます(RCVS2スコアなどで裏付け可能)[6]。
初期検査で異常がなくとも臨床上RCVSが疑わしければ、1〜2週間後に再検査して狭窄が出現・進行していないか確認することが重要です[3]。
- 他疾患の鑑別: 血管像で異常が認められない場合でも、他の原因疾患を検討します。例えば、頭痛に伴う乳頭浮腫や神経症状の進行があれば脳静脈洞血栓症(MRVで評価)を疑います。頸部痛やHorner症候群を伴えば頸動脈解離の評価が必要です。高度高血圧や意識障害が目立てばPRESを考慮し、MRIで後頭部白質の浮腫性病変を検索します。
- 確定診断: 総合的にRCVSが最も疑われる場合、原因となりうる薬剤・誘因を中止しつつ経過観察します。原則的に3か月以内に血管狭窄が消失すればRCVSと診断されます(経過中に症状が悪化する場合や診断に不確実性が残る場合にはDSAによる確認も検討します[4])。
鑑別診断
RCVSと類似の臨床像を呈しうる疾患として、以下が挙げられる:
動脈瘤破裂によるくも膜下出血(SAH): 単発の雷鳴頭痛で発症し、しばしば意識障害や髄膜刺激症状を伴います。頭部CTで脳底槽へのくも膜下出血を認め[3]、CTAで責任動脈瘤が検出される点でRCVSと鑑別されます。RCVSでは多発する雷鳴頭痛にもかかわらずCTでSAHを認めないか、認めても脳回に沿った少量の限局性SAH(cSAH)に留まることが多い[3]。
後部可逆性脳症症候群(PRES): 重度の高血圧や子癇・免疫抑制薬などを契機に起こる可逆性の脳浮腫症候群です。頭痛に加えて痙攣、意識障害、視覚障害を呈しうる点でRCVSより全身症状が強く[7]、MRIでは後頭葉を中心とした白質の浮腫性病変が特徴的です。RCVSとPRESはしばしば周産期や高血圧性脳症の文脈で合併しうるため(RCVS症例の7〜38%でPRESを合併との報告)[3]、両者の病態が重複するケースも考慮が必要です。
片頭痛: 慢性的に反復する片頭痛発作はしばしば強い頭痛を伴いますが、典型的には数分〜数十分以上かけて増悪し、RCVSのような突然の発症ではありません。また片頭痛ではオーラ(前兆)や光過敏など随伴症状を伴うことが多く、脳血管の画像検査は正常です。
脳静脈洞血栓症(CVST): 発症様式は多彩ですが、頭痛(時に雷鳴頭痛)、痙攣、局所神経症状などで発症しうる疾患です。妊娠・産褥や凝固異常などRCVSと共通の危険因子を持つ場合もあります。CVSTでは頭部MRIで異常な静脈径や出血性梗塞がみられたり、MRV/CTVで静脈洞の閉塞が確認されます。
鑑別の重要点: 中枢神経系血管炎(PACNS)では慢性的な鈍い頭痛と進行性神経障害を呈し、髄液で炎症所見を伴う点でRCVSと異なります[3]。PACNSの脳血管造影は不整で分節状の狭窄・拡張がみられ(しばしば末梢枝の途絶を伴う)、自然改善しないため免疫療法が必要となります[3]。
鑑別疾患 | RCVS | 動脈瘤破裂SAH | PRES | 片頭痛 | 脳静脈洞血栓症 |
---|---|---|---|---|---|
発症様式・経過 | 雷鳴頭痛が1〜2週に群発し、頭痛間欠期は軽快。局所神経症状は一部でみられるが多くは軽微。 | 単発の雷鳴頭痛で急激に発症し、しばしば意識消失や嘔吐を伴う。反復しない。 | 激しい頭痛だが徐々に発症し、しばしば痙攣・意識障害・視覚症状を伴う。高血圧状態で発症。 | 数十分〜数時間でピークに達する拍動性頭痛。光過敏や悪心を伴う。発作は慢性的に反復(長年にわたる)。 | 頭痛は亜急性に進行することが多いが、時に雷鳴頭痛様に急激に発症する。頭痛に加え局所神経症状や痙攣を高頻度に伴う。 |
画像所見 | MRA/CTAで多発性分節状狭窄("数珠状")[3]。MRIは正常か境界域梗塞・点状出血・cSAH・PRES合併を認めうる。 | CTで脳底槽へのSAH[3]。CTA/DSAで動脈瘤を検出。 | MRIで後頭葉優位の浮腫性病変(白質のT2高信号)。MRAで明らかな動脈狭窄は通常なし。 | 画像検査は発作時も基本的に正常。血管攣縮や脳梗塞は伴わない。 | MRIで静脈性梗塞や出血を認めうる。MRV/CTVで静脈洞の欠損を確認。 |
髄液所見 | 正常または軽度蛋白上昇・細胞増多[3]。 | 血性(RBC上昇)・キサントクロミー陽性。 | 通常正常(特記すべき異常所見なし)。 | 正常。 | 開放圧亢進。時に蛋白軽度上昇。 |
治療 | 除外診断を確認しつつ、降圧・鎮痛・CCB投与など対症療法。自然経過で改善[1]。 | 緊急に動脈瘤塞栓/クリッピング術。血管攣縮予防に高血圧療法+Ca拮抗薬。 | 血圧管理と原因除去(子癇には硫酸Mgなど)。対症療法で数日〜週で回復。 | 急性期は鎮痛薬で対症療法。予防的にトリプタンや抗CGRP薬など(必要に応じ)。 | 抗凝固療法(ヘパリン/ワルファリン)。血栓源の治療。 |
病態生理
RCVSの病態生理は完全には解明されていませんが、現在、「交感神経系の過活動に伴う脳血管トーン調節異常」と「内皮機能障害」の2つが主要な機序として想定されています[3]。様々な誘因によってこれらが引き起こされ、一過性の脳動脈攣縮状態に至ると考えられます。
交感神経系の過活動: 脳血管は豊富な交感神経支配を受けており、強い交感神経刺激は脳動脈の収縮を来します[3]。RCVS患者では発症時に心拍変動解析で交感神経活性が上昇し副交感神経活性が低下していることが示されており[3]、また約3割の症例で収縮期血圧の急激な上昇(血圧サージ)が記録されています[3]。
代表的なリスク因子がエピネフリン作用を持つ薬剤(トリプタン、SSRIs、SNRI、コカインなど)やカテコラミン産生腫瘍(褐色細胞腫)であること、産褥期における子癇発症がリスクとなることからも、急性の交感神経刺激が本症発症に深く関与すると考えられます[3]。これらの交感神経刺激や血圧上昇による一過性の過灌流が血管作動性の制御破綻を招き、結果的に血管平滑筋の著しい収縮反応を誘発すると推定されています[3]。
薬剤・誘因による血管収縮: RCVS患者の31%ではセロトニン作動性薬剤の使用や産褥などの明確な誘因が存在するとの報告があります[3]。特に抗うつ薬(SSRI/SNRI)や片頭痛治療薬(トリプタン、エルゴタミン)、交感神経興奮薬(アンフェタミン、コカイン、プソイドエフェドリンなど)、大麻、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムスなど)を含む多数の薬剤がRCVSの誘因として同定されています[3]。
これらの薬剤の多くは血管平滑筋上の受容体に作用して強い収縮を引き起こし(例えばSSRIは5-HT1B/2A受容体、トリプタンは5-HT1B/1D受容体を介して脳血管を収縮させる)[3]、複数の血管作動薬の併用により相乗的な攣縮が生じた報告もあります[3]。ステロイドの投与もRCVSを誘発・増悪させることが知られており[1]、こうした薬剤誘発性メカニズムは背景にある交感神経-セロトニン系経路の異常反応と関連していると考えられます。
内皮機能障害と血液脳関門(BBB)破綻: 急性の過灌流ストレスやカテコラミン曝露は、脳血管内皮に直接の障害をもたらし、血管作動物質の放出異常やBBB透過性の亢進を引き起こします[3]。RCVSではPRESを合併しない症例でも造影FLAIR像でBBBからの漏出を示す所見が約7割に認められたとの報告があり、BBB破綻がRCVSの中心的病態である可能性が示唆されています[3]。
BBB破綻により生じた局所の浮腫や血管作動物質のアンバランスはさらなる血管攣縮を惹起し、これが中大脳動脈の分節性攣縮(RCVS)や小動脈の拍動性過拡張(PRES)の形で発現すると考えられます[3]。実際、RCVSとPRESは産褥子癇などの状況で高頻度に同時発生し、一連の病態スペクトラムを構成する可能性が指摘されています[3]。
女性ホルモンとその他因子: RCVSが女性に多い点や産褥期に好発する点から、性ホルモンの変動も病態に影響すると推測されています。エストロゲンは血管内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性化やプロスタサイクリン生成促進を介して血管拡張トーンを高める作用があり[3]、産後に急激なエストロゲン低下が起こることで脳血管の攣縮に対する感受性が高まる可能性があります[3]。
その他、酸化ストレスや遺伝的素因もRCVSの感受性に関与しうると考えられています[3]。近年、RCVS急性期に血中エンドセリン-1(ET-1)が上昇し寛解期に低下するとの報告もあり、これも内皮障害・収縮因子の関与を示唆する所見です[8]。このようにRCVSは多因子が絡む血管調節障害と内皮障害が複合した病態と位置づけられています。
診療と治療方針
RCVSに対する標準治療法は確立しておらず、主に支持療法と経験的治療によります[1]。基本戦略は誘因の除去と合併症の予防であり、早期の診断確定により不要な侵襲的検査や無効な治療を避けることが重要です[1]。
一般的管理: 疑わしい誘発薬剤(抗うつ薬、頭痛薬、交感神経刺激薬など)は直ちに中止します[1]。頭痛に対しては鎮痛薬による対症療法を行い、必要に応じて制吐薬や抗てんかん薬を併用します[1]。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)はRCVSの悪化と関連するとの報告があり、避けることが望ましいでしょう[1]。
血圧は高すぎても低すぎても脳血流に悪影響を及ぼすため、必要なら降圧剤で中程度にコントロールし、過度の血圧変動を防ぎます。特に高血圧や痙攣発作を伴う場合はPRESの合併も念頭に置き管理します(周産期では子癇予防に硫酸マグネシウム投与を併用することがあります)。
カルシウム拮抗薬の使用: 脳血管攣縮に対する経験的治療として、ニモジピン(または他のCa拮抗薬)が広く用いられています[9]。正式なガイドラインはないものの、多くの専門家がSAH後脳血管攣縮治療にならいニモジピン投与を推奨しており[2]、経口ニモジピン60mgを4時間毎に投与することが一般的です[10]。
ニモジピンは血液脳関門を通過し脳動脈平滑筋に選択的に作用できる薬剤であり、セロトニンやカテコラミンによる収縮も抑制し、アデノシン増加作用を通じて血管拡張にも寄与します[2]。そのため病態の主要因である攣縮を緩和しうる理論的根拠があります。
実際、観察研究ではニモジピン開始が早いほど雷鳴頭痛の消失までの期間が短縮し、症状悪化を予防したとの報告があります[2]。一方で、ニモジピン投与が長期予後(脳卒中発生や機能転帰)を改善する確証はなく[1]、約10%の患者ではニモジピン抵抗性に経過中の脳血管攣縮が進行するとの報告もあります[9]。
ステロイドの効果: RCVSは当初PACNSとの鑑別が困難な場合にステロイド治療が試みられることがありますが、ステロイドにはRCVSを改善するエビデンスはなく、かえって症状の遷延・悪化と関連する報告があります[1]。したがって明らかな炎症性血管炎の所見がない限り、副腎皮質ステロイドの全身投与は推奨されません。
予後とフォローアップ: RCVSは基本的に良性であり、多くの患者は発症数週間以内に症状が軽快し、3ヶ月以内に血管狭窄が完全に正常化します。後遺症なく社会復帰できる率は90%以上と報告されています[3]。
なお、最近の後方視研究では、発症前のセロトニン作動薬使用(抗うつ薬)および経過中の脳内出血は独立した予後不良因子とされており[5]、こうした要因を有する症例では一層慎重な経過観察が必要です。
一度寛解した後の再発率は低いものの、最近の研究では5%程度の患者に後年のRCVS再発が認められたとされ、完全寛解後も誘因の回避と経過観察が推奨されます[11]。またRCVS急性期を乗り越えた患者の約半数は、その後も慢性的な頭痛(片頭痛様または緊張型)に悩まされるとの報告があり[11]、必要に応じて神経内科での頭痛コントロールのフォローアップが望ましいでしょう。
参考文献
- Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: literature review - PMC
- Effect of Nimodipine Treatment on the Clinical Course of Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome - PMC
- RCVS: by clinicians for clinicians—a narrative review - PMC
- Thunderclap Headache - StatPearls - NCBI Bookshelf
- Complications of reversible cerebral vasoconstriction syndrome in relation to age - PMC
- RCVS2 score and diagnostic approach for reversible cerebral vasoconstriction syndrome | Neurology
- Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome and Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome: Clinical and Radiological Considerations - PMC
- A Role for Endothelin 1 in Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome
- Early nimodipine treatment in reversible cerebral vasoconstriction syndrome
- Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: literature review
- Post-reversible cerebral vasoconstriction syndrome headache | The Journal of Headache and Pain